若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
驚いて目を見開くと、彼は少し躊躇うような表情を見せる。
だから、私も何が訊かれるのかと戸惑い、相手の顔を凝視したまま、ごくっと唾を飲み込んだ。


「お祖父さんから聞いてはいたんだが、君は和モダンの着物デザインをしているんだろう。
俺は、着物といえば文様とか柄行きとかがある程度決まっていて、それに応じたデザインがされているのだろうとばかり思っていたんだが、君が描くものはそれとは違って、どこか独特というか、いい意味で決まりや束縛もないように思えるんだが何故なんだ?
それと、この間も今日も、着物の生地を使った服を着ているだろ。君は『染屋白浜』の一人娘なのに、着物は毎日着なくてもいいのか?」


多分それが、私の日常だと彼は思っていたのだろう。
一気に話すとこっちの顔を見つめ、「早く解決してくれ」と言わんばかりに、前のめりの姿勢で待ち構えている。


おかげで私は面食らってしまい、話すべきかどうか一瞬迷う。

理由(わけ)を話したくないな…と思いながら目線を逸らし、自分が持っているスケッチブックへと向かわせる。


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