若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
「そうでもしないとやってられないよ」


独り言をこぼしてエレベーターの外へ出る。

ホールの前には見事な日本庭園が見え、御影石を組んで作られた園路の先には、一折が数十万円するといわれる鯉の棲む池とお茶会にも使われる茶室とが造られている。


私は時々、此処へ写生に来るけれど、いつ来ても開放的な上とても静かで、都会の中にいることを忘れさせてくれる。


「けれど、今日はお見合いでなんて、皮肉だな」


顔もネット上でしか知らない相手。しかも、雲の上に住んでいる様な御曹司様だ。


「映像を見る限り、確かに目元がキリッとしててイケメンだったけど、顔が整い過ぎて逆に冷たそうに見えると言うか、『ビル王』と呼ばれるだけあって、異様な威厳を感じた…と言うべきか」


相手のことを勝手に評価しながら待ち合わせの場所へ向かう。

庭園の端に設けられた築山の前が約束の場所で、そこの近くに相手がいる筈だ…と祖父は言っていたのだ。でも……



「いないじゃん」


なんだ…と周りを確かめて溜息を吐く。
こっちは多少なりとも緊張しながら此処まで来たのに、相手はまだ到着してないとか。


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