若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
だって、あのビルは、日本の古き良き文化を全世界に発信する為に造られたのでしょ。だから、発信していくのは、伝統文様が一番だと思ったの」


色をシルバーにしたのは、あの時に見たライティングがそんな風に見えたから。
実際に蛍の光をまだ見たことがない私は、本当はどんな色をしているのか、映像でしか知らない。


説明を聞きながら、彼は黙ってデザイン画を眺めていた。
感想も何も発せずに、ただじっくり見つめているだけだから、何となくもどかしくて、「聞いてる?」と言いながら視界に顔を覗かせた。



(あ……)


自分がしたことを急に意識して恥ずかしく感じたのは、彼と目が合い、ふわっ…と笑われた時だ。
同時に顔の温度が急激に上がり、慌ててその視界から逃れ、目線を逸らそうとした。



「香織…」


名前を呼ばれ、驚いて目を見張る。
視界の中にいる彼は優しい顔つきでいて、その手で私の頰に触れ、顔を近づけてくるものだから狼狽えた。



「……っ!」


ぎゅっと目を瞑ってその先を想像してしまう。
彼の唇が自分のものと重なり、熱が伝わってくるのではないか…と焦った。


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