若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
「だったら先に写生の材料でも探しておこう」


頭を切り替えて築山の周りを歩き始め、上を向いたり下を見下ろしたりしていたからだろう。

背後に人がやって来たことにも気づかず、後ろ向きに下がった途端、ドスンと帯がぶつかり、ハッと我に戻って振り返った。



「あっ、ごめんなさい!」


謝ると相手は少し驚いた様な目元で、視線を向けてきながら、「いや、こっちこそ」と謝り返してくる。



「あっ…」


顔を見た瞬間、直ぐにお見合いの相手だと分かった。

キリッとした切れ長の目元や眉尻に向かって伸びた真っ直ぐな眉、聡明そうな額と映像で見ても分かるくらい高い鼻梁には見覚えがあったからだ。



「あの、もしかして…」


橘…えーと、何て言ったっけ。


「あっ、そうだ、権三さんの孫!」


本人ではなく、つい印象深かったお祖父さんの名前を発してしまった。

相手は私の声を聞くとピクッと眉尻を上げ、若干呆れた感じで、「確かにそうだけど…」と呟き、自分の名前を名乗った。



「でも、俺は悠大だから」


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