若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
彼女のことが知りたくて、語尾を上げて訊ねてみるけれど、彼は「ああ」と言ったきり黙り込み、特別誰とは答えてもくれない。


おかげで余計なことを訊いてしまったのか…と思い、落胆してしまう。
こんなことなら訊かなければ良かった…と後悔が始まる。



「あの……もう帰ってもいいですか?」

「え?」

「ごめんなさい。今日はこれから用事があって」


如何にも前から決まっていた用事があるように装う。
本当は何も用など無いのだけれど、今の気持ちのまま、彼と二人で居るのは嫌だった。



「そうか。じゃ送るよ」

「いいです。どうせお店に行くから近いし」


ささっとスケッチブックと鉛筆をバッグに入れて立ち上がる。
パッと顔を上げてみれば、目の前にいる彼は、自分とほぼ変わらない辺りに目線があって……。


それに傷つきながら、「それじゃ」と声を発して歩き出した。
彼は一瞬、私に手を伸ばそうとしたけれど、その瞬間に走り始め、彼の手を振り切った。


どうしてこんなに自分が傷ついているのかもわからなくて戸惑っていた。
これで彼と会うのが最後だとわかっていながら、敢えてそんな態度に出てしまった___。



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