若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
怒ったようにきっぱり言い切る相手に冷や汗を感じ、「すみません!」と頭を下げながら謝る。

そのまま肩を竦めて取り繕うように笑い、自分の紹介を始めた。


「あの…初めまして。私、呉服店『染屋白浜』の娘で、大泉香織と申します。本日はお忙しい中お時間を割いていただきまして、誠にありがとうございます」


ペコッと頭を下げながら、連日「相手に失礼のないように」と言っていた祖父の言葉を思い返す。


(ごめん、お祖父さん、最初からやっちゃった!)


これはもう絶対に第一印象が最悪だな…と諦めて顔を上げると、向こうは私を見ながらニヤッと微笑み、大して怒った顔もせず、「いや、別に」と言ってくる。


「こっちは最初から此処へ来る予定だったんだ。だから、それに合わせて君と会う約束をしたまで」


別にお見合いをする為に足を運んできたわけではない、という感じの言葉を付け加えられ、「歩くか?」と言いながら園路の先を指差す。


「え?……ああ、はい」


促されるままに二人で歩き始め、取り敢えずはセーフかな…と安堵した。
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