若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
さあ、これから忙しくなるぞ、と祖父は急に張り切り始めるのだが……。


「いやいや、お祖父さん」


ちょっと待って、と言いたくなるが、あまりの喜びように言いだすのを躊躇う。

祖父は私の結婚式を見て死ぬのが前からの希望で、それを冥土の土産話として持っていき、祖母に話して聞かせるのだ…と毎度のように聞かされているから拒絶もしにくい。


だけど、大事なことを忘れてしまっている。

もしも、私が彼と結婚して嫁いで行ってしまったら、この店の暖簾は誰が守るの?
私以外にうちには子供はいないし、五代続いた『染屋白浜』の暖簾をこのまま父の代で無くすことなんて出来ないのに。


(彼に「婿養子に入って」と頼むわけにはいかないだろうし、そもそも、あんな上流階級の人の妻になったら、家庭に収まり、夫を支えるのが役目になるのでは!?)


マダムと呼ばれる方に触れる機会は少ないけれど、お店に来られるお客様方を見る限り、そういう感じではないの!?…と思ってしまう。


(それにあの人、あんなに親密そうな女性と知り合いなのに、わざわざ私なんかと結婚なんてしなくても)


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