若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
「香織?どうかしたか?」


ハッとして父の方に目を向けると、私を見ている三人の視線に気づいた。


「あ…」


気後れしながら三人を見遣り、「何?」…と問いかける。


「お前は琉成君の友禅を見てどう思った?感想を聞かせてやりなさい」


祖父の言葉に琉成さんを見直し、ごくっと唾を呑み込んだ。


「あの……優しくて、とてもいい色合いだと思います。琉成さんらしい柄っていうか、長く着ても飽きのこない感じがする。(…けれど、私には絶対に似合わない柄だ)」


最後に思った言葉は言わず、ニコッと微笑んで締め括る。
その発言に父も祖父も頷き、琉成さんは嬉しそうに笑った。


その後、琉成さんの着物は店頭の一番目立つ所へ掛けられ、『新人友禅作家作品』として、お客様方にお勧めされていた。



「売れるといいけどな」


琉成さんは気にしながら暫く店の様子を眺めていた。
けれど、こちらに居る友人達と会う約束があるから…と言い、「明日また来る」…と手を振り、店を去って行く。


私は、彼の背中を見送りながら、ホッと息を吐いた。

暖簾を守る身として、敵が去った様な、妙な安心感を抱いていた___。


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