若きビル王とのエキサイティング・マリッジ
ちらっとそちらに視線を流すと、一人はスーツの胸元に弁護士バッジを付けていて、もう一人はそいつの友人なのか、ノーネクタイにジャケットというラフな格好だった。


二人は注文したアルコールで乾杯し、お互いの労を労い合っていた。
「懐かしいな」という言葉から、学生時代の友人なのだろう…と連想していた。


「……お前が、こんな立派なビルの中に、弁護士事務所を構えているなんて驚きだったよ」


ノーネクタイの男性はそう言って話し始めた。
ネクタイを締めている相手も、「そうだろ」と言って笑い、酒を飲み合っている。


「そう言えば今日、『会いに行く』とか言っていただろ。いつも話して聞かされた可愛い女の子に。…えーと、名前なんて言ったっけ。かすみ…じゃなくて…」

「香織だよ。大泉香織」

「ああ、そうそう。確か隣のテントビルに店を出しているという呉服屋の一人娘!」

「お前、声が大きいぞ!もっと小声で喋れよ」


遮るようにノーネクタイの男性が制した訳は、俺が驚いた顔つきで、ちらっと二人の方を振り向いたからだ。


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