あの丘で、シリウスに願いを

働き詰めだった一月はあっという間に過ぎた。
二月になると落ち着きを取り戻したが、翔太は人員の確保や雑務に追われ、プライベートな時間は全然取れなかった。
何とか大学病院から専門医の資格を取ったばかりの小西(こにし)という医師と、やる気と若さだけはある研修医の二人を確保できることになった。人材が育てば、だいぶ楽になるはずだ。


そして暦は3月になった。


その日、まことは朝からそわそわしていた。

「おはよー」
「おはようございます、翔太先生」

早朝会議を終えて眠そうな顔で現れた翔太に、まことがサッと歩み寄った。

「おはよう、まこと。何?おはようのキスでもしてくれるの?」
「冗談はやめて下さい。翔太先生、今日は、私、何があっても絶対に17時に帰りたいんです。お願いします」
「いいけど。何、何?何かあるのー?」

まことは、ただニッコリと笑って『ありがとうございます』というとスキップでもしそうな勢いで席に戻って行った。

「まこと先生、珍しいですね、5時に上がりたいなんて。まさか、デートとか?」
すぐそばにいた若い看護師が冷やかすようにまことに言った。

「待ってたの。やっとなの。楽しみすぎて」
珍しく浮かれた様子のまことに看護師が更に冷やかす。

「まこと先生、彼氏いたんですねー!知らなかった」

隣の席の水上がギョッとして、翔太を見た。翔太はフルフルと首を横に振っている。

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