あの丘で、シリウスに願いを
まことは胸を押さえる。息が止まりそうなほど、苦しい。翔太を頼ることも拒絶されて、まことは放り出されようとしている。

「息をゆっくり吸いなさい。深く吸って吐いて」

翔太はまことの異変に声をかける。だが、優しく抱きしめてはくれない。
それが、彼の出した答えなのだ。
まことは大きく息をして、それから姿勢を正して彼の前に立った。

「お世話になりました」

翔太にはもう頼れない。

恋をしたのはまことだけ。そもそも恋愛にかける時間など無駄だとわかっていたのに。未来は求めないと割り切っていたはずなのに。

大丈夫、翔太を知る前に戻るだけ。
医療に人生をかけて一人でも多くの人を助けていく。心臓に負担をかけないように常に自分を抑えて、一人で生きていく。そこに戻るだけ。

その前にただ一つ、自分の思いをどうしても彼に伝えたい。伝えて、全てを過去にするのだ。

「先生は自分を凡人と評価するけれど、あなたは私にとって、『シリウス』…一番輝く憧れの星でした」
「…っ!」

彼が息を飲んだことはわかった。だけど彼の目は見れなかった。深々と頭を下げてまことは、部長室を後にした。



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