あの丘で、シリウスに願いを
「お母さん、大丈夫?」
「ナナちゃんったら急に走り出すんだもの、ビックリしたわ」
母親は、痩せていてあまり体力がないようだ。娘が息を整えてやろうと、背中をさすっている。
その娘もお腹が大きい。妊娠後期だろう。
人懐こい犬は、まことに甘えてくる。飼い主の母娘を困惑させるほど。
「犬は大好きです。かわいい子ですね」
ある程度撫でて、まことは立ち上がる。
「じゃあね、ワンちゃん」
犬は、ジッとまことを見つめている。なんとなくショボンとしているように見えた。
「ありがとうございました。本当にすみません」
「犬にも一目惚れってあるのかしらね?本当にありがとうございました」
クゥンと甘え泣きする犬に手を振ってから、母娘にも軽く会釈をして、まことは家路を急いだ。
実家でも犬を飼っていた。犬は大好きだ。
手にしたコンビニのビニール袋がカサカサと音を立てる。
ーーあの犬、この匂いに引き寄せられたのかもしれないな。
ビニール袋の中を見て、思わず笑みがこぼれる。唐揚げのいい匂いがした。
さぁ、いよいよこれから、お楽しみの時間だ。