あの丘で、シリウスに願いを
そんなまことの様子を、翔太はパソコン越しにちらっと見ていた。

彼女の手に握られた、青いボールペン『シリウス』
翔太にとって、苦い思い出だ。
小学校卒業まで放課後や休日に友達と遊んだり、趣味の習い事をしたような、楽しかった思い出はない。そもそも、学校ですら休みがちだった。

経営に関するノウハウや、外国語の勉強など、それぞれ一流のプロに叩き込まれた。
だが正直、翔太は不出来だった。歳相応の理解が精一杯。周囲の落胆にいつも傷ついていた。

ーー拓人だったら、『シリウス』のことももっとスマートにやれたんだろうな。

毎日泣きながら『シリウス』のことを考えていた日々。冷たい周囲の視線に追い込まれて、針のムシロだった。

もともと、一条家の後継者の器じゃないことは誰の目から見ても明らかだった。なぜこんな家に生まれたのか、両親を恨んだりもした。いとこの拓人が、後継者としての才に溢れていたことが救いだった。

< 34 / 153 >

この作品をシェア

pagetop