あの丘で、シリウスに願いを
公園から五分も歩かないところ。驚いたことに彼女が指差したのは、まことの寮のすぐ隣の建物だった。

「一階の、101号室なんです」

彼女はそう言うとエントランスを抜け、一番手前の部屋のドアに鍵を差し込んだ。


「お母さーん」
「遅かったじゃないの、心配したわよ。あら、お客様?」
「先ほどそこの公園で痛みがありました。陣痛かも知れません。心配で付き添わせていただきました」
「まぁ、ありがとうございます!助かりました!
お礼しなくちゃ」
「あぁ、お構いなく。それより、娘さんを。
予定日過ぎているようですし、一気に進むかもしれません。いよいよ赤ちゃんに会えますね」

まことは、そう言って立ち去ろうとした。

「…っ」

再び痛みがやってきたのだろう。女性は、玄関先で膝をついてしまう。
まことがとっさに手を貸して、そして気づいた。

「破水じゃないですか?」

彼女の足元が濡れている。

「まぁ、大変!柊子(しゅうこ)とりあえず、家に入りなさい。病院に電話しなくちゃ!」
「破水?これが?えっと、えっと…」

動揺する彼女の肩を、まことは優しくぽんと叩いた。

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