あの丘で、シリウスに願いを
そんな翔太を、信子が笑いとばした。
「いやだ、翔太先生。あなたの子供が生まれるわけじゃあるまいし。落ち着いて。まだまだ時間かかるわよ」

信子がバンと翔太の背中を叩く。
だが、翔太は両手に荷物を持ってあたふたとしている。


「ついさっき急患が入ってさ。洸平が処置してるんだけどまだかかりそうで。そっち代われば良かったな。とにかく急いで柊子ちゃんを病院に連れて行かなきゃ」

「六平先生が居てくれたし、こっちは大丈夫。
六平先生、私、歩いても大丈夫ですか?今は痛みもなくて落ち着いてます」
「なるべくゆっくり。水上さん、慌てなくていいから、ゆっくり移動しましょう」

狼狽えている翔太とは対照的にまことは落ち着いて柊子の手を握って彼女の身体を支える。

「柊子ちゃん!危ないよ。車椅子なかったっけ?それよりストレッチャーか。持って来させよう」
「翔太先生。大丈夫です。車椅子もストレッチャーも要りません。歩いて大丈夫ですから。さ、水上さん」
まことは、柊子の手を引いて歩きだす。

「でも…」

一人アタフタしている翔太に、まことは一つため息をついた。

「翔太先生。仮にも医者ですよね。専門外とはいえ、狼狽えすぎです。破水から出産が始まるなんて珍しいことじゃありません。
先生がそんなことでどうするんですか。
今、一番不安なのは柊子さんです。我々は、冷静に的確な判断をし、柊子さんが無事に出産できるよう最大限のお手伝いをしましょう」

淡々と正論を浴びせられ、翔太はポカンとその場に立ち尽くした。

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