あの丘で、シリウスに願いを
「あれ、一条?」

その時。
たまたまテーブルの脇を通りかかった男性が、翔太に声をかけた。

「北山?久しぶりだな」
「横浜のほう、ずいぶん評判いいじゃないか。いやぁやっぱり水上を取られたのは大きかったよ」
「お前のとこは?」
「まぁまぁだね」

メガネの向こうの細い目が、ちらりとまことを見る。

「お食事中に失礼しました。初めまして、北山蓮(きたやま れん)と申します」

北山蓮。その名前には聞き覚えがあった。アメリカの大学で、いくつも論文を発表した有名な外科医だ。

敬意を払うつもりで、まことはスッと椅子から立ち上がり、挨拶をした。

「初めまして、六平まことです」

北山の視線がまことの胸で止まっている。
目立つのだろう。やはり傷跡は見えない方がよかった。まことは、サッと手で胸元の傷跡を隠す。

「彼女はうちの優秀なスタッフだよ」
「これはこれは、女医さんでしたか。翔太にセクハラされていませんか?もし横浜が嫌なら是非うちに」
「北山、スカウトなら他でやって」
「お前が優秀だっていうから。お前んとこは水上がいるじゃないか。ちょうど女医が欲しかったんだ。女性患者が女医を指名することも多くてさ。気が向いたら連絡して下さい。
食事中に邪魔したな。じゃ」


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