あの丘で、シリウスに願いを
だが、翔太は小さく首を横に振った。

「俺さ、医者としても普通だろ?でも、一条家の人間として業績を残さないといけない。常に最高を求められる。だから、病院に詰めてばかりでさ。毎日、仕事ばかりで体も心も疲れてしまって。蓄積した疲労ってどこかで回復しないと心も体も壊れてしまうんだ。
それで実家で飼ってた犬を連れてきたの。ナナの為に帰ろう。俺がご飯あげて散歩して遊んであげないとナナは死んでしまう。ナナがいると、癒されるんだよ。
そうやって、心と体のバランスを辛うじてとってる。
まこと先生を見てると心配になるよ。頑張りすぎはだめだよ?」

「わかりました」
疲れを回復する時間も忘れるほどに、自分を追い込んでしまう。まことは、自分にもそんな傾向があることを知っている。


「それと。
痛みをもう二度と味わいたくないことはわかってる。『絶対』はあり得ないことも分かってる。だけど、必要以上に怯えてやりたいことを我慢してばかりじゃもったいないよ。
どうしても心配なら、もしもの時の為に俺が側についててあげる。少しずつ運動してごらんよ。好きなんだろ?体を動かすこと」

ーー側についててあげる。だから、運動しなよ。

両親も兄たちもそう言ってくれた。それでも、何かあれば迷惑をかけてしまう。痛みも怖いし迷惑をかけるのも辛い。

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