あの丘で、シリウスに願いを
「怖い…また心臓が壊れてしまう。もうあんなに苦しいのは、嫌だ」
「まこと…」

心臓は問題ない。彼女も頭では理解しているはずだ。それでも忘れることができないほどの痛みはトラウマとなり、彼女を苦しめ怯えさせる。
医師の言葉も検査データもそして彼女自身の医学の知識も、その怯えを取り除きはしない。つまり、医師として翔太に出来ることはない。

今の翔太に出来ること。一人の人間として不安を抱える彼女を支えること。安心して頼れる存在として側にいること。
青ざめ、動揺するまことの体を、翔太は優しく抱きしめた。そして背中をそっとさする。


「痛みを分かち合うことは出来ないけれど、俺が痛みに寄り添うから。心配しないで。ゆっくり息を整えて。まことの心臓は、壊れない」


痛みを訴えるたび、母が優しく抱きしめて、背中を優しくさすってくれた子供の頃を思い出す。翔太のぬくもりが、安心させてくれた母のそれに似ている。

恐る恐る、翔太の背中に腕を回す。一層ぴったりとくっつくと翔太の鼓動が耳に届いた。
規則正しいリズム。こんなふうに、リズムを刻んでいけばいい。

ゆっくり息を吸って、吐く。何度か繰り返して、少しずつ落ち着かせていく。
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