地獄船
一般人のカラオケのレベルを超越している歌声は、心に直接響いてくる。


「なんだよこれ、上手すぎるだろ」


浩成がブルブルと体を震わせてそう言った。


ミヅキの歌声はいつまでも聞いていたくなるようなものだった。


そこらへんの歌手よりも、断然うまい。


気が付けば俺はミヅキの歌声に聞きほれていた。


恐怖も不安も消えてなくなり、ここにはミヅキの歌声と自分だけしかいないような錯覚さえ起こす。


素晴らしい出来栄えだった。


ミヅキの周囲には花が咲き、沢山のスポットライトが当てられているように見える。


気が付けば俺は泣いていた。


頬を伝う暖かな涙に驚き、そして拍手を送った。


歌い終えたミヅキはうやうやしく頭を下げてほほ笑む。


もはやここは船上などではなかった。


ステージだ。


日本武道館だ。


「すごい、すごすぎる……!」


興奮した状態でそう言うと、隣に立っていた綾が呆けた顔をしているのが見えた。
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