地獄船
「綾、今のミヅキの歌声、聞いたか?」


「うん……聞いてた」


綾はまるで寝起きのようなとぼけた声でそう言った。


「だったらもっと感動しろよ! ほら、拍手!」


俺の言葉に誘われるようにして拍手をする綾。


しかし、それも力が入っていない。


「なんだか、同じ人間の歌声とは思えないよ……」


そう呟いた綾はため息を吐き出した。


ここでようやく、綾は歌が下手だと言う事を思い出した。


今のミヅキの歌声で更に自信を無くしてしまったようだ。


「ミヅキほど上手な人なんてなかなかいないよ。後はみんな似たようなもんだって!」


そう言って綾を励ますものの、綾の歌声は人並み以下だ。


「はい、次~。白組~」


鬼からの指示が飛んだ瞬間、浩成の目に涙が浮かんだ。


浩成の歌声を聞いたことはないけれど、ミヅキの美声の後じゃ誰でも泣きたくなるだろう。
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