地獄船
「まぁまぁだなぁ。はい、次は赤~」


鬼がため息交じりにどういった。


鬼の言う通り、まぁまぁだった。


次にステージに立ったのは小恋だった。


小恋は緊張しているのか、しきりに咳払いをして喉の調子を確かめている。


小恋が選んだのはアニメソングだった。


しかも大昔の、俺たちの親世代のアニメだ。


そのチョイスに唖然としていると、小恋が歌い始めた。


最初はしっとりと、徐々に力強くなっていき、サビの部分では広間を揺るがすくらいの声量で。


ミヅキほど上手ではないけれど、小恋はそれをテクニックでカバーしている。


「すごい……」


綾がそう呟き、俯いた。


自分の番が近づくにつれて、その顔色は青ざめて行く。


「大丈夫だよ小恋。きっと、大丈夫だから」


次で俺は音程を外す。


外して外して外しまくる。


いくら綾が下手だとしても、追いつけないくらいにだ。
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