地獄船
鬼は何も言わず、その光景を見つめていた。


そして、ミヅキの腕を掴んでいた子鬼が背伸びをしてミヅキの頭を掴んだ。


ミヅキが目を見開き、声にならない悲鳴を上げる。


グイッと抱き寄せられるように子鬼に近づいたミヅキの耳に、子鬼が噛みついたのだ。


そのまま一気にミヅキの耳を引きちぎってしまった。


周囲は血にまみれ、ミヅキの絶叫が響き渡る。


うそだろ。


冗談だろ。


そんな、いとも簡単に人間の耳を食いちぎるなんて、できるわけがない。


だけど、これは現実だった。


俺の目の前でミヅキは耳を引きちぎられ、子鬼はそれをうまそうに食っているのだ。

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