地獄船
俺にはこれといって特技はなかった。


勉強はほどほどにしかして来なかったし、将来は父の会社を継ぐことが決まっていたから夢もない。


だけど……。


1つだけ、幼い頃から続けてきたことがあった。


それは従兄の兄の影響ではじめたダンスだった。


運動神経のいい鬼たちの前で披露したってダメかもしれない。


文夫のバック転みたいに低評価になるかもしれない。


それは理解していたけれど、俺にはダンスしかなかった。


それ以外に今できることなんて、なにもない。


俺は広間の真ん中に立ち、鬼を見た。


お前はどうしてこんなことをするんだ。


みんなを残酷に殺して、それを見て楽しむなんてとんだ野郎だ。


心の中でそう罵った。


もちろん、声に出したりはしない。


綾だけは助けてやらないといけない。


そのためには、こんな所で死ぬわけにはいかない……!
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