地獄船
こんな単純なマジックでここまで喜ぶのかよ。


種と仕掛けがわかった俺は苦笑いを浮かべる。


それなら本気のボディウェーブなんて必要なかったじゃないか。


そう思った時だった。


俺と綾の後ろに座っていた文夫が突然立ち上がり、星斗へ向けて歩き出したのだ。


止める暇もなかった。


文夫は星斗の隣に立つと、その右手を掴んだのだ。


鬼たちからの拍手がピタリと止まり、とまどった表情を浮かべはじめている。


俺も鬼たち同様に戸惑っていた。


文夫はいったいどうしたんだろう?


「ねぇ、まさか……」


綾が小さな声でそう言い、俺の手を掴んだ。


「え、なに?」


俺が綾に聞き返すより先に、文夫は動いていた。


「こんなのいかさまだ!!」


そう言い、星斗の右手の親指を掴んだのだ。


あっと思った時にはもう遅い。
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