君の腋を舐めたい
「先生!何も変化無いよ!」
アルコールランプの上で熱せられるビーカー。
黒板の前でどっしり構えていた佐藤先生と違って、
あの人は各グループを回りながら様子を見守っていた。
そして俺のグループの机に近づいた時、元気だけが取り柄のクラスメイトが声を掛けた。
「ん~~~??ほらよく見て。
色がちょっとずつ変わってきたでしょ?」
ビーカーを凝視する俺達と同じ様に、
あの人もビーカーを覗き込んだ。
背が高かったあの人にとって、中学生の理科室の机はより低く感じたはずだろう・・。
腰を曲げて、前屈みになったあの人。
グレーのTシャツだった。
映像としてこの頭にこびりついている。
間違いなく覚えている。
名前、年齢、その他諸々は覚えていない。
でもあの瞬間は・・今でも思い出せる。
前屈みになったことで、
重力に従ったTシャツの首元。
前屈みになったことで、開いた胸元。
アルコールランプに熱せられるビーカーに注目するクラスメイト、あの人。
俺だけは・・ビーカーではなくそれを見ていた。
初めて見た女性の“胸チラ”。
体温が上がったのを実感した。
これが・・俺が“性”に目覚めた瞬間だった。
クラスメイトの女子。学校の先生達。
病院の看護師。道行く人。
俺はこの日以来、
少しでも前屈みになる瞬間があったら、それを捉えられる斜め前へ移動するようになった。
雪合戦や雪だるまが楽しいからと、
冬が一番好きだった自分が・・
「一番好きな季節は夏です。」
と確信を持って答えるようになった中学1年の出来事だった。