俺様外科医との甘い攻防戦
唐突なアプローチ

「で? 考えてくれた?」

 誰もいなくなったカンファレンスルーム。
 前触れもなく話しかけられたせいで、心臓が縮み上がる。

 蒸し暑い空気が日に日に和らいでいく、秋の夕暮れ。日が落ちるのも早くなった窓の外を眺めていたせいで、取り残されたようだ。
 ひとりになったタイミングを見計らい、話しかけられた感がある。

 そもそも身長差のせいもあり、背後に立たれると覆いかぶさられているかと錯覚するからやめてほしい。

「あの、今は業務中ですので」

 不自然にならないように、距離を取りつつ拒絶する姿勢を示す。

「そう言うのなら、俺からの食事の誘いを断るべきじゃないな」

 切れ長の目が妖しく細められ、視線が絡みそうになって横へと流す。

 どうして私なんかに執拗に声をかけてくるのか、理解に苦しむ。

 そこへ廊下から近づいてくる足音が聞こえ、飛び退くように距離を取る。良からぬ仲だと誤解されたら堪らない。

久城(くじょう)先生。明日執刀予定の岩永さんについて、少しご相談が」

「ああ、どうした」

 久城先生に用事のある看護師が探しにきて、お陰で逃れられた。ふたりに形ばかりのお辞儀をしてから部屋を出る。

 足早に通路を進み誰もいない階段を駆け下りたところで、安堵してため息を吐き出した。
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