俺様外科医との甘い攻防戦
普段は忙しい医師を捕まえるのも大変で、昼休みを待ち構えてみたりオペが終わる時間を見計らい訪ねてみたり。ただ、今はその医師誰とも会いたくない。
そっと覗いた部屋の中には誰もいない。ホッと息を吐き、お目当てのデスクに持ってきたものを置く。
書き置きもあった方がいいかな。どうしよう。
「奥村、さん?」
迷っている背中に声をかけられ、「ヒッ」と短い悲鳴を上げる。しかも声の主は一番会いたくなかった人物。驚かした張本人はククッと喉を鳴らしている。
「お化けじゃないんだから、そこまで怯えるなよ」
「足音を消して近づくなんて、悪趣味です」
「そんなつもりないんだけどな。ん? 差し入れ?」
久城先生のデスクに置いたチョコの箱を目ざとく発見され、なんとも居心地が悪い。
「昨日の、お礼です。あの本もう少しお借りしていてもいいですか」
「ああ、いいのに。律儀だな。ありがとう」
「貸しを、作りたくなかっただけです」
かわいげのない返答をし、立ち去る。
当直と言っていたから、この時間は仮眠室にいると思っていた。まさか顔を合わせるとは思わなかった。
ああ、心乱されるのが悔しい。
向こうはなんとも思っていないのに。