俺様外科医との甘い攻防戦

 実家のお父さんのように、脱いだ服が玄関から順番に脱ぎっぱなし。なんてことはあり得ない。

 だから、もしかして手料理が苦手かも、というのは考えなかったわけじゃない。

 しばし固まっていた久城先生が、口元に手を当てて、口籠っている。

「いや、うれしい。驚いて。初めてだ。店以外で人に作ってもらった弁当」

 初めて、は言い過ぎなんじゃ。
 そう思いつつ、喜んでくれているみたいで、ホッと胸を撫で下ろす。

「合間に食べさせてもらうよ」

 無事に受け取ってくれたのを見届けて、私も自分の準備を始めた。

 どことなく忙しなく準備をし、久城先生を見送って、ソファに腰を下ろす。

 医師は朝も早く8時半に医局内のミーティングがあるため、8時には出勤してカルテのチェックや手術の予定などに目を通しているようだ。

 リハビリは9時からの開始で、作業療法士のミーティングが8時半。それまでに出勤すればいいため、少しだけ時間に余裕がある。

 ひとりになって息をつくと、久城先生の爆弾発言を嫌でも思い出してしまう。
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