俺様外科医との甘い攻防戦
終業後、4階へと向かう。
整形外科で上腕骨近位端骨折の手術をした桜田さん。一度リハビリを調整したあとの経過は順調で、退院後も通院で診察とリハビリを行なっている。
担当医の高橋先生に今後のリハビリについて意見を聞きたいと、呼び出しを受けた。
意見交換を済ませ1階へと下りるときに、視界の端に仮眠室の入り口が映る。
慌てて、視線を逸らし、階段を駆け下りようとしたところで、「奥村さん」と呼び止められた。
振り向くと、そこには東雲先生。
「少し、話せるかな?」
東雲先生が視線を向けた先は、仮眠室近くの自販機もある休憩所。
話しかけられるような仲じゃない。
私が一方的に憧れていただけで、東雲先生は私の名前さえも知らないはずで。
それでも確かに『奥村さん』と呼ばれたし、私の目を見て話していた。
先に休憩所に行ってしまった東雲先生を追う形で、後に続いた。