俺様外科医との甘い攻防戦

「よかった。人違いじゃなくて」

 東雲先生は、温和な顔を崩して優しげに笑う。

「あの、どうして私の名前を」

 東雲先生は私の質問には答えずに、突拍子のない言葉を発する。

「きみさ、俺をいいなとか、憧れていたとか、そんな時期があった?」

 面食らっていると、東雲先生はクスクス笑う。

「やっぱりね。蓮弥がさ。あ、久城先生ね。きみの後ろ姿をよく見ていたり、俺を見ているときのきみにちょっかいかけていたりしたからさ」

「それは、どういう……」

 東雲先生は穏やかな表情を崩さないまま、順に説明していく。

「俺が女にだらしない性格なのは、蓮弥もよく知っていて、呆れてはいるよね。それで、あまりにもかわいそうだと思った子には、救いの手を差し伸べているみたいで」

 なにを話されているのか、あと少しでわかりそうでいて、わざとわからないように考えることを放棄している自分がいる。
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