俺様外科医との甘い攻防戦

 私は壊れたおもちゃのように、単調に自分の要望を伝える。

「久城先生のマンションには、戻りたくありません」

「わかってるよ」

 頭を撫でる手は優しい。

 どうして優しいの?
 慈悲深い気持ちで、東雲先生の毒牙から私を救ってくれるような人だから?

 でも……。
 気持ちが自分に向かったら、切り捨てるのでしょう?
 前の看護師の人みたいに。

 胃がキリキリと痛み、よろめくと久城先生に支えられる。

「顔色が良くないな。近場で落ち着ける場所に入ろう」

 手を引かれ、歩き出す。
 手に触れたぬくもりだけで、胸が痛くなる。

 好きにさせておいて、酷いよ。

 そう叫びたい気持ちを飲み込んだ。
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