俺様外科医との甘い攻防戦

 近場のシティホテルに入り、フロントで鍵を受け取る。
 スムーズなチェックインは、マンションの前で私が立ち尽くしている間に、ネットで手続きを済ませてくれたのかもしれない。

 ドアを開け中に入ると、久城先生はため息を吐き、腕にかけている白衣を椅子にかけてから、ソファに腰掛ける。

 広めの部屋はキングサイズのツインの部屋で、ベッドの奥にソファとテーブルがある。

 着の身着のまま追いかけてきた久城先生は白衣のままで、それはタクシーの中で脱いでいた。
 私もスクラブのまま、入ってすぐのところから動けない。

 こんなに動揺して、酷く滑稽だ。

 それなのに、未だに私は……。

「久城先生と大人の関係になってもいいと思えたら、手を上げればいいんですか?」

 私は肩の高さまで手を上げて見せる。

 お願い。指先、震えないで。

 息を飲んだ久城先生が、ゆっくりと顔をこちらに向ける。
 そして離れた距離を埋めるように、私の元へと歩み寄る。
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