俺様外科医との甘い攻防戦

「『きみの声、眠くなるから子守唄を歌ってくれない?』って無茶振りされました!」

 当時の恥ずかしかった気持ちも込めて睨むと、あの日と同じ笑顔で笑われた。

「歌ってくれなかったじゃないか」

「歌えませんよ! 仮にも病院ですよ? だいたい、やっぱり久城先生も、誰彼構わずじゃないですか!」

「なにが? まさか、手術直後で襲いそうって、そこに着目するわけ⁉︎」

 憤慨したように目を見開かれ、つい吹き出してしまった。

「酷いな。真剣に気持ちを伝えているというのに」

「ごめんなさい。どこか夢見心地で」

「俺、誰彼構わず手を出したことはないし、陽葵と出会ってからは、陽葵を振り向かせることに忙しくて」

「東雲先生の毒牙から、守らなきゃいけなかったですからね!」

 ついつい茶化すと、久城先生はため息混じりに言う。

「途中からは、本気で落としたかった。だから、これからもずっと一緒にいてくれないか」

 真剣な口調に、笑みを消し、久城先生を見上げる。

「結婚しよう。陽葵」
< 149 / 165 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop