俺様外科医との甘い攻防戦

「市原さん。奥村さんに手を握ってもらいたいからって、わがまま言ってちゃダメですよ?」

 突然、私たちの間に割って入るようにかけられた声に目を剥いた。

「久城先生!」

 白衣を着た久城先生がすぐ近くに立っている。こんなに華やかな人が入ってきたことに気づかないなんて。

 久城先生は体を屈め、市村さんに向き合う。

 口を噤み下ばかり見ていた市原さんは、顔を上げ晴れやかに告げる。

「そうしたいのは久城先生でしょう。『かわいい作業療法士さんでうらやましい』と昨日言ってたのを忘れておらんよ」

 どうしてここに久城先生が。
 今日の午前中はオペの予定じゃ。
 しかも患者さん相手にそんな軽口を!

 困惑する私を尻目に、話は進む。

「奥村さんはかわいいだけじゃなく、腕もしっかりしてますと昨日お伝えしましたでしょう?『あんな玩具はちょちょいのちょいだ』って仰っていたじゃないですか」

 気難しい男性だとばかり思っていた市原さんは久城先生とは打ち解けているのか、親しそうに話す。
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