俺様外科医との甘い攻防戦
「……はい」
緊張で声が震える。
消えかけた声は確かに届いたようで、ギュッと抱き締められる。
「良かった。本当に」
安堵の声を漏らす久城先生に、つい数日前まで怒っていた内容を告げる。
「でも、勝手に『婚約した』と周りに言うのは、やめてほしかったです」
「院内の噂は面倒なんだ。上に、陽葵は俺の婚約者だと報告しなければ、収集がつかなかった」
本当に?
外堀から埋められ、退路を絶たれたような気もしなくもない。
けれど、『婚約者』だと先回りして言われたことを、あまり怒れないのは、確かに周りの反応が好意的だったから。
そもそも女性の噂のない久城先生。
その上、しつこく言い寄った看護師を辞めさせる徹底ぶり。
その人と婚約、しかも作業療法士となれば、言い寄ったのは久城先生でなければあり得ないと、認められたというか。
これが恋人となれば、みんなの見方も違ったかもしれないと思うと、恐ろしくなる。
「『頑張り屋の作業療法士、奥村さん』を律紀の毒牙から守ったのに、俺が居づらくさせてしまっては本末転倒だろ?」
同意を取り付けるような言い方に、肯けるわけもなく、思っているままを伝える。