俺様外科医との甘い攻防戦

 しばらく抱き締め合ったあと、腕が緩められ、真っ直ぐに見つめられる。

 抱き合っていた腕も体も離れ、一度感じたぬくもりがなくなったせいで、寂しさまでもが込み上げる。

 けれど、今はそんなことは言っていられな
い。

 頬に流れた涙の跡を拭って、私も久城先生を見つめ返した。

「俺、この数日で嫌というほど、身に染みた。俺は陽葵に傍にいてほしい。陽葵でなければダメだ。さっきは、陽葵にもしものことがあったらと……」

 声は掠れ、震えている。

「今まで、強引に進めてきた自覚はある。だから陽葵の考えを、尊重したい気持ちもある。ただ……」

 久城先生は口をわななかせ、それから噤んでしまった。

「蓮弥さん?」

 名前を呼ぶと、思い出したように話し出す。

『ただ……』なんだったのだろう。
 飲み込んだ言葉は、きっと、すごく大切な言葉だ。

「いや、うん。陽葵、俺にしろよ。絶対に幸せにする」
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