俺様外科医との甘い攻防戦

 久城先生の服装を横目で観察し、ふと気づく。

「あ、私、こんな格好では入れないんじゃ」

 そもそもが、ラグジュアリーな雰囲気漂うベリーヒルズビレッジ内にある職場。制服に着替えるとは言え、通勤服にはある程度気を配ってはいる。

 そうだとしても、きれいめカジュアルではドレスコードに引っかかるのでは。

 今日は黒のカーディガンをインしたロングスカートという装い。スカートはふくらはぎくらいまでの長さのタイトスカートで薄めのベージュ。巻きスカート風の揺れる裾と長めのベルトが硬すぎず崩れ過ぎず、きれいめにまとまっていると思う。

「かわいいし、いいんじゃない。堅苦しくならなくても。個室だから安心して」

 だから、サラリと『かわいい』とか言わないで。
 心の動きを悟られないように、目を逸らしながら言う。

「エレガントなドレスとかじゃなくて平気ですか?」

 これには「ハハハッ」と笑われてしまった。

「奥村さんのエレガントなドレス姿は是非とも拝見したいね。次はそういうところにしよう」

 当たり前に『次は』なんて言わないでほしい。
 意見するのさえ馬鹿らしくなり、ガラス張りのエレベーターから外を眺める。

 ちょうど夕焼けが沈むところで、街を赤く染めていた。
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