俺様外科医との甘い攻防戦

「お料理を順にご用意いたします」

 静かに閉められたドアの音が、やけに耳につく。

 こんなに近距離で座るとは思わなかった。
 目を奪われた景色もどうしてか、まともに見られない。

 すぐ近くから聞こえる衣擦れの音に、ほのかに香る男性らしいにおい。意識するなと言う方が無理というものだ。

 この人、自分がいかに男前かわかって行動していて、女性は誰でも喜ぶと踏んでいるんだろうな。

 自信あふれる行動に嫌気が差し、冷静さを取り戻していく。

「で、俺と付き合う気になった?」

「どうしてそうなるんですか」

 隣というのは、案外いいかもしれない。
 顔を見ずに済むから。

 そう考え直し、気を紛らわそうとしたのも束の間。
 頬に手の甲が触れ、肩を揺らす。

「ハハ。そこまで怯えなくてもいいだろ」

「突然、そういうことしないでください」

「そういうこと?」

「触る、とか、そういうのです」

 声に出すと無性に恥ずかしくて、これも久城先生の手口かと口惜しくなる。
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