俺様外科医との甘い攻防戦

 身長は185センチはあるだろうという長身で、スラリと高い。細身でも軟弱だとは思わせない男らしい体つきは、白衣を着ていても人を惹きつける。

 艶やかな癖のない黒髪を横に流し、その下にのぞく涼しげな目元は彼の魅力を最大限に引き出している。気怠げであるのに濡れた瞳はどこか色気がある。
 鼻筋は綺麗に通り、薄い唇もどこか蠱惑的で。

 どこをどう切り取っても整っている完璧な外見。その上、31歳という若さで脳神経外科医のエース。『天は二物を与えず』という諺は嘘だと思う。

「だいたい忙しくて、食事なんて行ってる暇ないでしょう」

 誰に言うともなくぼやく。

 毎日のようにオペの予定があり、手術前の患者及び家族への説明に、術後の回診、それに学会に発表する論文をまとめている姿を目にしたこともある。

 食事に行くよりも、その時間があるなら寝ていたい。それが本音に決まっている。

 からかわれているだけね。

 そんな結論に達し、自分の職場であるリハビリステーションの扉を押した。
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