俺様外科医との甘い攻防戦
納得してくれただろうか。
久城先生の横顔を盗み見ても、ただ美しいだけでなにも読み取れない。
「それなら、どうして憧れているのか聞いていいか? なにか、きっかけがあったんだろ?」
両手を組み、私を覗き込むようにして質問をする。
「笑わないで、聞いてくれますか?」
「ときと場合による」
別に、ドラマチックななにかがあるわけではない。
笑われるだろうだな、と思いながら口を開く。
「私がまだ小学生の頃、急にお腹が痛くなって。そのときに助けてくれたんです」
「それ、だけ?」
あからさまに拍子抜けした声を聞き、ムキになって反論する。
「私にとっては『それだけ』では、なかったんです。親の都合で転校したばかりの頃で、その人の優しさに救われて」
帰り道、うずくまっている私に声をかけてくれた。
小学生三年生だった私は、恥ずかしくて『お腹が痛い』とは言えなかった。
それでも、背中を撫でてくれる大きな手は優しかった。
「親の都合の転校ね。俺もそういう小学生が、道にうずくまっているところに遭遇したことがあるな。中学の頃」
「小学生のうちなら、転校くらいって親は軽く考えるんですよね」
私と同じように、転校を経験した人はたくさんいる。
そのくらいありきたりなものだと、今ならわかる。
それでも、当時はつらかった。