俺様外科医との甘い攻防戦
「ま、俺は坊主だったけどな」
「えっ。坊主って、その、髪型が丸坊主という意味の?」
意味不明な発言は、無闇に久城先生を笑わせる。
「本当、奥村さんって面白いね。いまどき丸坊主の小学生に、なかなか会わないでしょ」
楽しそうな久城先生を尻目に、私は記憶を遡って当時を思い出す。
『じゃあな。気を付けて帰れよ。坊主』
そう言われて、その人とは別れた。
当時ショートカットだった私は、男の子と間違えられてショックを受け、それから髪を伸ばすようになって。
あの人は久城先生?
まさか。そんなわけない。
体調が悪くて、顔は正直よく覚えていない。
それでも、その人は確かに東雲病院横の住宅に入っていった。
後日、東雲病院には中学生の男の子がいると知り、それが今、都波中央総合病院の呼吸器内科に勤めている東雲先生のはずで。
口を開きかけ、言葉が形になる前に口を噤む。
聞いてどうするというの?
憧れの人が実際は誰であろうと、変わらない。
もしも、東雲先生ではなく、仮に久城先生だったとしても、医師に変わりないのだから。