俺様外科医との甘い攻防戦
「そんなこと言うと、お店で一番高いお酒飲んじゃいますよ?」
意地悪で言ったのに、フッと表情を緩めるから嫌になる。
「いいよ。その代わり、この埋め合わせはさせて」
「時間ないんですから、無理しないでください」
これは本音だ。思いの外、楽しい食事ではあった。
けれど久城先生が私のために割く時間が惜しいと、我ながら思ってしまう。
「そう思うのなら、これ」
「え」
渡されたのは、カード?
「俺の部屋で待っていてくれ」
「は? はい?」
状況を捉える前に、久城先生は個室を出て行こうとしている。
「あの、困ります!」
「涼介に、ここの店のフロアマネージャーに俺の家の行き方聞いて。奥村さんが家で待っているのなら、早めに帰れるよう努力する」
「あの!」
引き留める声に止まることなく、久城先生は出て行ってしまった。
残されたのはカードなのに、どこか重厚感あふれる面構えの、たぶんこれはマンションの鍵。
とんでもないものを預かってしまった後悔が押し寄せ、頭を抱えた。