俺様外科医との甘い攻防戦

 最初は熱心に患者を見ている作業療法士だな。カルテを見て、そう思っただけだった。

 まだまだリハビリが上手くいかない記述もあり、若い作業療法士でやる気にあふれているのだろうと微笑ましく思っていた。

 自分の担当する患者の病状をリハビリに反映させるために、俺のところに現れた奥村陽葵とカルテの作業療法士が一致したのは、しばらくしてから。

 若い上にかわいらしい見た目で、医師の中でもファンは多い。
 ただ俺はかわいいだけの医療従事者は必要ないと、常々思っている。

 けれど、奥村さんは一般的なかわいらしい女性とは違う。

 第一に俺に色目を使ってこない。
 こう言うと自惚れていると奥村さんに嫌味を言われそうだが、多少はモテて生きてきた俺を前にして眉ひとつ動かさず仕事の話しかしない人間は数えるほどだ。

 まあ、そうだとしても、かわいい割に芯がしっかりした仕事仲間。その程度の認識だった。

 奥村さんが、奴に見惚れている姿を目の当たりにするまでは。
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