俺様外科医との甘い攻防戦
「手術のスペシャリストでしょう。毎日代わる代わる手術室だって聞くからねえ」
「医師からしたら、血が怖いなんて泣き言……」
情けなくなって口籠る。
「あの完璧先生には相談しづらいか」
ふたりで「うんうん」と頷き合い、しんみりとする。それがなんだか可笑しくなり、顔を見合わせてプッと吹き出した。
市原さんとこんな風に打ち解けて笑い合えるのは、他ならぬ久城先生のお陰だ。
そこには感謝している。でも、それとこれとは別の話で。
というより、それとこれの『これ』ってどれよ。
こんな調子で、受け取ったカードを涼介さんに預け高級レストランを脱兎の如く逃げ出した後も、ずっと私の頭を占拠して悩ませる。
気持ちを切り替えてリハビリに集中しても、手が空けば思考はお留守になりかけて。
これじゃいけない!
と頭を振り、懸命に雑念を追い出すのだった。