俺様外科医との甘い攻防戦

 本音を垂れ流すわけにもいかず、黙る私に久城先生はテーブルに置いた本を押し返す。

「とにかくこれは受け取らない。受け取ったら、今後会う口実がなくなるだろ?」

「えっ、なっ、そっ」

「それとも、もう少し専門的な書籍を借りにうちに来るっていうのなら、受け取る」

 うろたえる私を視界に収め、久城先生はクスクス笑っている。

「からかわないでください!」

「からかってないよ。なにか食べよう」

 久城先生はコーヒーを脇に寄せ、メニューを手にした。メニューを取るために伸ばした指先が美しく、目を奪われそうで顔を背ける。

「いえ。私は」

「ひとりだと面倒くさくて、つい寝食をないがしろにしがちなんだ。奥村さんとなら楽しく食事できるから。付き合ってよ」

「それは……はい」

 もしかして……。
『付き合ってよ』というのは、ただの勘違いで『食事』に、だったり『買い物』にというオチ?

 そこまで考えを巡らしていると、見透かしたように付け加えられる。

「そのくらいスムーズに俺との付き合いにも『はい』って言えばいいのにね」
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