俺様外科医との甘い攻防戦

 突き放すような態度を取り続けているのに、頭を撫でる手は優しくて。

「一緒に食事をするのはいいかな。奥村さんといると心地いいし、落ち着くんだ」

 先ほどまでの勢いはシュルシュルとなりを潜め、椅子の上で小さくなる。
 久城先生に人柄をほめられるのは、純粋にうれしい。

 あまりにも大人げなかったのかもしれない。
 食事くらいはと、覚悟してきたのだから。

「それは、その、食事のお供が私でよろしければ」

「そう。良かった」

 柔らかな声色を聞いた後、頭から手は外され、その手はもう一度メニューを開く。

「変な意味に捉えないで聞いてほしいんだけど、奥村さんといたらよく眠れそうなんだよね」

「えっと、それはどういう」

「眠るのが苦手で」

 思わずコーヒーカップに視線が行くと、苦笑される。

「コーヒー飲むなよって思った? 飲んでも飲まなくても変わらないから諦めてる」

 指先でコーヒーカップの縁をなぞり、目を伏せる久城先生はどこか憂いを帯びた顔をしている。

「眠れないのは、つらいですね」

「ああ、もう慣れたけどね」
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