俺様外科医との甘い攻防戦

 専門書が多く置いてある本屋は通勤経路から外れるなあと、頭の中で帰る方向を思い悩む。

 リハビリステーションを出て、ちらほらと医療従事者が歩いている院内を進む。分厚い専門書は値が張る上に内容が難しい。分かりやすくそれでいて専門的な本を見つけるのは、砂漠で宝物を探すようなものだ。

「勉強したいけど、医学書は買うと高いなあ」

 探しに探して買い求めた専門書の内容がイマイチだった場合、痛い出費も救われない。

「それなら丁度良かった。これ、貸すよ」

 低い声に話しかけられ、ギクリとして恐る恐る振り返る。白衣の久城先生が背後から隣へと歩み寄ってきていた。

「い、いつからいらしたんですか」

 独り言、聞かれた⁉︎

「会いに向かったリハビリステーションの扉から、出て行くところが見えたから」

『会いに』とか、無駄にときめきそうになる言葉のチョイスをしないでほしい。
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