俺様外科医との甘い攻防戦
先に出てもらうように言って、会計を済ませる。
この後、どうするんだろう。素直に解散になるのかな。
「この後は」と自分から聞くのは、この後を期待しているようだし。
「ではこれで」と言えば、またなにかからかわれそうで。
思い悩みながら店の外に出ると、少し離れた場所で久城先生は誰かと話していた。
「久城先生、今は誰とも付き合う気はないって」
悲痛な声は若い女性のものだ。
うわっ。なんて間の悪いところに。
隠れてしまいたいのに、時すでに遅し。
「久城先生が女性とふたりで食事に行くなんて、信じられない」
縋り付くように訴えている女性は、目からポロポロと涙を流している。
「悪いけど、きみの気持ちには答えられない」
はっきりとした声は温度を感じられないくらい冷ややかで、これ以上踏み込めない壁を感じた。
息を飲んだ女性は私に気づき、睨みながら言い放つ。
「見ているなんて最低!」
駆けるように去っていく彼女の気迫に押され、私はその場によろめいて崩れ落ちた。
『見ているなんて』と言われても、耳を塞ぎ、視線を逸らして立ち去れば良かったの?
他人の負の感情に触れ、体が震える。