俺様外科医との甘い攻防戦

「立てる?」

 伸ばされた手に、捕まることを怯む。
 すると、強引に手を取って持ち上げられた。

「痛っ」

 痛みを感じた足首を庇うと「捻ったかな。無理に動かなさい方がいい」と即座に指示される。

「いえ、あの、平気ですから」

 体を押し、距離を取ろうとすると、反対に抱き寄せられた。
 フワッと体が宙に浮き、目眩がしそうになる。

「ダメだ。捻挫は甘く見ない方がいい」

 私も医療従事者の端くれだ。そのくらい心得ている。
 だからと言って、この状態はいただけない。

「タクシーを呼ぼう。痛みが引くまでは歩いてはダメだ」

 有無を言わせない雰囲気に飲まれ、久城先生の言うままに寄り添ってもたれかかる。

 久城先生の手配したタクシーが来るまで、道の隅でまるで抱き合っているように身を寄せ合う。
 鼓動は否応なしに速くなり、顔も全身もなにもかもが熱い。
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