俺様外科医との甘い攻防戦

 タクシーが到着すると膝の後ろに手を入れられ、抱きかかえられた。
「きゃ」と悲鳴を漏らすと「しっかりつかまって」と事務的に注意される。

 そのまま後部座席に押し込まれると、久城先生も隣に乗り込んで「近くて申し訳ないが、ベリーヒルズビレッジのレジデンスまで」と運転手に行き先を告げる。

「えっ。いや、待ってください。どうして、そんなところ」

「家に帰しても、びっこ引いて歩くだろ。強制連行」

「いえ。帰ります! 平気です! 帰らせてください!」

 久城先生の腕を掴み、必死で懇願する。

「あの〜。お客さん。どうします?」

 タクシー運転手の困り果てた声を聞き、グッと言葉を飲み込む。
 隣で久城先生は同じ言葉を繰り返した。

「ベリーヒルズビレッジのレジデンスまで」
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